作り手を身近に感じることの大切さ|価値を届けるという矜持

職人
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油揚げにみる豆腐屋さんの矜持

近所に豆腐屋があります。

時々、買いに行くのですが、油揚げが売り切れていることがしばしばありました。

昨夕も油揚げを買いに行くと、売り切れていました。

「油揚げが売り切れのことが多いですね。人気が有るのですね。」
と言うと、豆腐屋のご主人からお話がありました。

あらましはこうです。

豆腐屋ご主人の話

うちは、作り方が違う。

そうは言っても、低温の釜で揚げた後、カラッとさせるために高温の釜で揚げるのは他所と同じ。

うちらの仕事(豆腐屋稼業)だと油揚げを揚げるのは難しい仕事に属する。

うちの油揚げは評判が良く、遠くからわざわざ買いに来る人もいる。

油揚げの好きな人ほど良さを分かってくれる。

ここに腕の見せ所があり、小さい店は、こういう部分がないとやっていけない。

でも豆腐屋だから手揚げの油揚げが美味しいかと言うと必ずしもそうでもない。

豆腐屋でも他所のは駄目だと言って、わざわざ、うちに買いに来る人もいる。

スーパーマーケットなどで売っている手揚げ風の油揚げは、普通の油揚げと作り方は変わらないから、ただ高いだけ。

こんな話を聞くことが出来ました。

失われつつある価値

私はこの豆腐屋さんに象徴されるようなこだわりを持った職人と言いますか、仕事人が好きです。

自分の仕事の価値、付加価値を理解し、それを信じ、日々働いている人々です。

工業製品の悲しさ

以前に何かで読んだのですが、あるイタリア人に日本製の素敵なバッグ(鞄)を見せたそうです。するとそのイタリア人が、

ベッラ(きれいね)、でも大量生産でしょ!?心が感じられないもの!

と言われたという話がありました。職人の手仕事を愛でるイタリア人から見た日本の工業製品の印象です。

お伝えしたいことは、イタリア人との比較論ではありません。

心に象徴される価値

ここで「心」という言葉に象徴された価値の存在です。

利便性と安価というものと引き換えに失ってきたものを再認識したいということです。

以前の記事「経済至上主義は「お金に換えられないもの」を置き去りにする|本物の喪失」の中でも触れたのですが、利潤を追求しはじめると、最高のものは手に入らなくなります

利潤追求は効率化とセットであり、品質(クオリティ)と費用(コスト)とはトレードオフの関係にあるからです。

過去記事「失われつつある「おもてなし」の心|顧客中心主義が元凶」から引用しますが、

おもてなしは、内発的、自発的に相手の満足を目指すのに対し、顧客中心主義は、顧客満足度を軸に妥協点を探るもの

文中の「おもてなし」をここで言う「心に象徴される価値」、「顧客中心主義」を「経済至上主義」若しくは「利潤追求」と置き換えると解り易いと思います。

心の通わない品物の蔓延が心を喪失させる

かあさんの歌

かあさんが(※) 夜なべをして
手ぶくろ 編(あ)んでくれた
こがらし吹いちゃ つめたかろうて
せっせと編んだだよ
故郷(ふるさと)のたよりはとどく
いろりのにおいがした

※(注) 「『かあさんが』となっている歌集もあるようです」とあり、「は」と表記されていましたが、わたしは「は」ではなく「が」で覚えているので「が」にしました。

この歌の中に出てくる手袋は、手にしている者に特別な感慨を湧き起こします。

この例は、母親という特別な存在があるので、商品としての手袋と同一視してはいけないでしょう。

しかしながら、ここで、この手袋が、百貨店で買って送ってくれたでは、同じような感慨は湧き起こらないだろうということです。手袋だけでなく、様々な品物が安価で手軽に手に入るようになり、手間暇を掛ける機会も失われていきました。このように作り手を感じるといった原体験の機会も失われています。

作り手の手間暇が見えること、作り手を身近に感じることが大切だと思うのです。

物理的には見えていないにしても、受け取った人間にその思い、労力、苦労が分かる、ここが大切なところだと思います。

先に触れたイタリア人の云う「心」とは正にこれだと思います。

仕事への矜持が価値の源泉

現代の日本社会では、作り手が見えない、そして作り手の「思い」はもっと見えないことが多いと思います。

私が個人的に、ファミリーレストランやファーストフードなどのフランチャイズチェーン(FC)が好きではないのはこれが大きな理由です。

所謂、暖簾分けとフランチャイズチェーンが異なるのは、この思いの継承の有無です。心を届けたいと思った場合、顧客満足度を軸に顧客満足とコストの妥協点を探るが、スタート地点になることはあり得ないのです。

届けたい価値があって、そこから商業ベースに載せられるか否かを探る、ここには利潤の最大化といった経済至上主義的な考えはありません。そして如何に価値あるものを送り届けることが出来るか、そこに仕事への矜持が有ります。

プロのためのラーメンの本 2 (柴田書店MOOK)


※ 現在では古本しか無いようです。

69’N’ROLL ONE(ロックンロールワン)というラーメン屋の店主、嶋崎順一さんは、書籍「プロのためのラーメン本2」の中で、

原価計算というのはね、いかに利益を出すかを考えてするのかではなく、どうしたらいい素材を使えるか、それを考えてするものだと思います。

と言っています。

如何に利益を出すかを考えて行けば、最高のものは失われて行くのです。