飲食業界は離職率が高いことで知られています。
平成 28 年雇用動向調査結果の概況(厚生労働省)によると宿泊業・飲食サービス業という括りではありますが、30%に上ります。
離職率の高さの原因は何処にあるのでしょうか。
怨恨感情
「一日で辞めたことがありますか」
かつて飲食業に従事してきたという或る人にした質問です。
そしてのその答えは、「あるよ」、「一日辛抱して働けたら翌日も出勤する。そして三日、一週間勤務したら、続けられそうかな」と思うんだそうです。
当初から離職の可能性を想定
驚いたのは、勤務開始から離職の想定が歴然としてあることです。
一般の事業会社に就職した場合には、先ずは勤務継続が念頭にあり、離職するのは余程の事という認識ではないでしょうか。
また求人に応募した人の話です。
採用側
求人が一杯になっていたとのことで、話はそこで終わると思いきや、「この業界(飲食業界)なんでいつ飛ぶか分からないので、空きが出たら連絡します」こんな返答をもらったそうです。
電話で問い合わせをした際の返答で、履歴書の送付や面接をしたわけではありませんから、応募者に特に魅力を感じたということではないでしょう。
飲食業界の雇用事情が垣間見られます。
インターフェイス
さて、どうしてここまで離職が問題になるのか考えてみましょう。
結論からいいますと、仕事環境に問題が有るからです。
仕事環境に問題が有るでは、答えになっていないですから、更に深掘りして行きましょう。
仕事の難易度が仕事環境に感応度が高いと言ったら如何でしょうか。
要するに或る店舗で実力を発揮していた人が、店舗を移ると、環境次第では実力を発揮するのに時間が掛かるということです。
このことは一般の事業会社でも起こることです。
どんな環境でも一定の慣れは必要です。慣れるまでは実力を十分に発揮することは難しい。
ではなぜ飲食業では他に比べて離職に繋がってしまうのでしょうか。
立っている者は親でも使え
時間感覚に原因があると考えられます。
営業時間だけでなく仕込みを含めた時間的制約です。
ただでさえ長い勤務時間になりがちな飲食業では手際よく仕事をこなすことが求められます。
開店時間には、開店準備が終了していなければなりませんし、営業中は速やかに料理を提供することが求められます。営業が終了すれば、素早く片付け帰途に就きたいわけです。
店を円滑に回さなければならないという共通認識から、当たりが強くなりがちです。
飲食業従事経験者と言っても、本来なら業種が変われば、仮に業種が変わらなくても店が変われば、慣れるのに時間が掛かります。
食材、食器、調理器具、雑貨などがどこに置かれているか、一通り覚えなければ話にならないのです。飲食店に勤務したことが無い人には想像が付かない覚えなければならない事柄が無数にあるのです。
ところが原価率こそ他業種に比べて低く粗利こそ高いものの、最終損益としては必ずしもゆとりがあるわけでは無い。人件費や場合によっては家賃の存在が大きいのです。
それもあってか、慣れるのに十分な時間が与えられず、いきなり強く当たられる。要するにボロクソに扱われることが少なく無い現実があります。
怨恨感情
ラーメン店で卒なく仕事をこなしていた居酒屋店経験者の或る人について、別のまた或る人曰く「来たばかりの頃はボロクソ言われていました」
要するに能力で劣るわけでは無いのにもかかわらず、慣れていないがために不当な扱いを受ける。※
※ より生々しい話をすれば、例えば人生経験のあまりない学生のアルバイトが、生意気な態度や口の利き方をします。彼ら(彼女ら)も就職すれば、その分だけ不遜な態度のしっぺ返しを受けるわけですが・・・
入店直後という弱者であるが故の怨恨感情を持たされる。
その店舗で得られる便益を考える。例えば習得できる技術など。それを怨恨感情と天秤にかけるも怨恨感情の方がより重くなって行く。
これが比較的よく見られる初期に於ける離職の一因でしょう。
便益が大きければ、大きな怨恨感情でも堪えられます。つまり相応の動機がある者だけが残るということです。
例えば、その店の技術をどうしても身に付けたい、その店の暖簾をどうしても分けてもらいたいなど。代替が利くなら固執する必要はありません。
離職率が高くなるのは、怨恨感情が相当溜まるからだと言えます。
無数の選択肢
インターフェイスが取り易い、つまりこれまでの経験を活かしやすく、慣れやすい職場というものは有るでしょうから、それを求めて転職します。
飲食業界は人手不足ですし、採用する側も離職が多いことも理解しているので、応募すれば、先ずはやってみましょうという話になることが多いです。
おかしな会社が山ほどあり、自らの会社もおかしな会社であるにもかかわらず、自らを省みず、求人応募者の転職歴をやたらと気にする奇妙な企業群とは一線を画し、その点では清々しいとも言えるでしょう。