即行動は効率が悪い
やることを決める。
直ぐに作業に取り掛かる。
一見すると正しい行動に見えますが、これでは効率が悪いです。
挿話「或る新卒のこと」
ある会社に勤務していた時のお話です。
或る有名大学を卒業して、前途を嘱望(しょくぼう)された新人が入社してきました。
社長に惚れ込み、在学中には有志を集めて、社長を招き、講演会を企画するほどの行動力を持った若者でした。
ある日、彼はデータ処理を依頼され、直ぐに作業に取り掛かり始めました。
と伝えました。
作業は淡々と続ければ良いのですが、その前段でどのように作業を進めればよいかということを十分に考えてから行った方が効率的です。
そして、彼が依頼されていたデータ処理は、処理の仕方が何通りも考えられ、その作業過程の選択によって、副次的に他の成果物の可能性が有り、また中間成果物の再利用を念頭に置いた作業工程も考えうるからです。
作業手順の指示を逐一受けて、それを単になぞるというような仕事では、成長は見込めません。先述した将来を有望視された若者に相応しい仕事法ではありません。そこで、先のような忠言をした訳ですが、聡明な彼は、快く私の言葉を聞き入れて理解し、作業に入る前に考え、時として、自分の考えを確かめるため相談に来るようになりました。
計画無くして行動無し
実行、実践の前に、じっくりと企画、計画することが大切です。
これは、作業の場合だけでなく、個々のプロジェクトや経営全般でも言えることです。
むしろ規模が大きくなればなるほど、重要視されなければなりません。
みなさんご存じのPDCAですね。
Plan-Do-Check-Act:プラン[計画]ードゥ[実行]ーチェック[点検・評価]ーアクト[改善・処置]
企画、計画すると言っても、全てを見通すことは出来ないまでも、想定できる範囲内ですが、御膳立てが出来、不測の事態にも備えることができます。企画、計画をおざなりにすると、実行の段階で、不測の事態だらけになってしまいます。
企画にはまずその目的を明晰判明に理解せよ
作業にせよ、プロジェクトにせよ、経営にせよ、PDCAサイクルを円滑に回すためには、作業なり、プロジェクトなり、経営なりの目的をきちんと理解することが大切です。それをはっきりと理解しないことには、まともな企画、計画は出来ません。
一例を挙げましょう。
確か、「至高の営業」という本で読んだ話だったと記憶しています。
至高の営業
営業担当とその上司である部長とのエピソードでした。
営業担当は、予算に厳しい制限があるので、予算内に収めるなど、顧客の依頼に沿った見積もりを作っているのですが、部長はそれを不要として破ってしまいます。
当然ながら、営業担当はあんまりだと感じます。
その後、部長は、先方にアポイントメントを取って、会いに行くのですが、その相手は、発注元の購買窓口ではなく、またその上司でもなく、そのパソコンを使うと思われる部の部長なのです。その際に営業担当を同行させ、一部始終を見せています。
当然に予備情報を持って訪れ、改めて、その部長から、事業の展望や目的などの聞き取り調査を行い、何が先方にとって最も望ましいソリューションになるかを検討した上で提案し、予算等の制約条件をものともせずに受注し、顧客に感謝されるという筋書でした。
営業担当と部長の行動の違いは、営業担当が、営業というものを、「真の望みではないかもしれないが、顕在化された要望に応えるもの」と理解しているのにたいし、部長は「顧客の潜在的且つ本源的な望みに応えるもの」としているところに起因します。これは営業の目的に対する理解の違いです。この部長が行った営業活動は周到な企画、計画に基づくものです。
真の目的、真の目標
従って、真の目的、真の目標を理解しないことには、望ましい企画、計画はできないということが判ります。
知っていることと出来ることは異なると前回の >> 知の血肉化|覚えるということの本当の意味と教育の有り方でも書きましたが、知っていることと実行、実践できることは違います。
知の血肉化を助ける教育のプロセス
恐らくPDCAサイクルを知っておられる方はたくさん居られると思います。しかしながら、知の血肉化が出来ておらず、企画、計画の前に、直ぐに動き出す人が多くおられることも事実だと思うのです。
そして、PDCAを実践し、知を血肉化していこうとするプロセスで、企画、計画をするにあたって、目的、目標を正しく理解する必要性が顕在化しました。営業担当と部長の話は、営業のノウハウを示しているだけでなく、部長が営業担当の知の血肉化を助けるストーリーとしても読むことが出来ます。
企画をおざなりにするから混乱が起こる
今回は特に、実行に入る前の企画、つまり「行動の前に考えること」に焦点を合わせてお話ししてきました。
ここにいう企画の意味するところは、目標、目的を明確に理解し、業務なり、プロジェクトなり、経営なりの全体をきちんと俯瞰し、プロセスを組み立てることです。その為には、外周、環境も含め、細部にわたって精査することが必要です。そうすることで、予め、何が必要になってくるかなど、ある程度準備しておくことが可能です。
自己の采配下にない力が必要な場合、例えば、他の関連部署の手伝いや協力会社など外部の助けなど、ある程度想定し、依頼しておくことも出来ます。さもなくば、急に助けが必要となり、社内外の関係者を引っ掻き回すことになります。
全体を見通すことが、単純明快な場合は問題ありませんが、全体を見ぬままに出た所勝負(でたとこしょうぶ)、社内外を引っ掻き回すという状況をしばしば見かけました。
※ 今回は少し欲張って、様々な要素を盛り込み過ぎた嫌いがありますね。