原価を基礎に価格を決定するのは間違いです。
極めて基礎的なことなのですが、誤解されていることが多いようです。
仕入原価や製造原価に販管費※などを回収できるだけの収益を乗せて利益を得る。だから原価は価格決定の基礎になるのではないかと思うかもしれません。
※販管費 販売費及び一般管理費の略
ところがこれは間違いです。
お客さんが買いたい値段
お客さんの買いたい値段が売価ですよ。
スーパーマーケットの勤務歴数十年という或るスーパーの部長の言葉で、
原価割れで売っている白菜
或るスーパーで、「白菜が高いですね」の言葉に、「相場が高騰しているのです。これでも大赤字ですよ」と返事が帰ってきたことがありました。
白菜は売らなければ良いではないかと思うかもしれませんが、そうは行かない事情があるのです。
手が出ないほど高い値段で置けば、無いのと同じことです。また冬の白菜は、主要な野菜ですから「あの店には白菜が置いて無かった」と思われてしまうことが、良くないのです。ですから、高いながらも、どうしても欲しければ、買う気になれる価格設定となります。
原価割れするから置かない蕗の薹
それとはまた別のスーパーですが、
蕗の薹を置かないことは、一つの選択ですが同時にリスクもあります。
それは春先に蕗の薹、タラの芽、ウド、
それを避けるためには、置かざるを得ません。ですから、置いて居る店は、少々の赤字は覚悟して仕入れています。
マーチャンダイジング
商品の仕入れはマーチャンダイジング(商品政策)の主要素の一つです。
スーパーで取り扱う生鮮食品には特有の問題があります。一定期間を過ぎると価値がゼロになってしまうことです。
実際には、工業製品でも陳腐化はあり、時間経過と共に価値は下がって行くのが一般ですが、生鮮食品の場合、価値喪失までの時間が顕著に短いのです。
価格がゼロになるくらいならば、見切り品として早々に値引きをするのもこのためです。
勘案すべき三分類
採算を考える上では、
- 通常売価での販売量
- 値引き後売価での販売量
- 廃棄量
の三つを勘案しなければなりません。つまり、廃棄を出すくらいならば、価格設定をより安価にして全て売り尽すということも有効であり選択肢の一つになります。
価格設定で採算と同水準で勘案すべき要素「顧客満足」
また、価格設定を安価にすることで、採算に合うならば、採算が好転するならば、安価に設定するのは当然ですが、少々採算が悪化したとしても採算に合うならば、安価に設定することも有効です。なぜならば、安価な方が顧客満足度は間違いなく向上するからです。
価格設定を考える上では、採算の他に、常に顧客満足を勘案しなければなりません。再来店を促すのは顧客満足度の高さだからです。
また単品で考えるのではなく、売り場全体で顧客満足度と採算は考えなければなりません。
バスケット全体で価格設定する
先述のように、単品では赤字覚悟で置く商品もありますから、バスケット全体(商品総体)、即ち顧客の購入額総体で採算は考える必要があります。
注意が必要なのは、仮に直近で採算が向上したように見えても、徐々に顧客が減少してしまうことも考えられることです。
例を挙げると、目玉商品を廃止した場合です。いつもその目玉商品を買いに来ていた顧客が、買うことができず、店舗にとっては都合の良い、採算の良い代替品を購入して帰っていたとします。何度も同様のことが起こると失望し、目玉商品目当てで来店していた顧客は、他のスーパーへ流れてしまうかもしれないということです。
メニューを減らすリスク
かつて或るラーメン店経営者から聞いた話です。
トッピング一つにしろ、メニューを一つ減らすのには勇気がいる。
どんなメニューにも必ずお客さんは一定数ついているもので、メニューを減らすことで、そのお客さんを切り捨ててしまうことになる。
要するに、無くしたメニューを目当てに来てくれていた顧客は来なくなってしまう、或は来店頻度が下がってしまうということなのです。
例えば、
正しい価格設定のあり方
結論としては、原価は売り手側の都合、売価は買い手側の都合で決定するので、売り手側は原価を売価に照らして採算を考えて行くことになるということです。
※ 今回は敢えて厳密な表現は取っていません。直感的に理解しやすいように記載しています。
買い手側の都合に合わせて決定した売価で、販売数量は増減しますから、通常売価販売量、見切り売価販売量、廃棄量の割合を想定し売り手側は売価を決定することになります。
ひと言で言えば、仕入れた商品全てを販売することで換金し、金額を最大にする価格設定が正しい選択です。この時、原価は頭から外す必要があります。
但し、見切り価格での販売は、時間を待っての買い控えを誘発する要素もあるので注意が必要でしょう。基本は通常価格での売り切りを目指すことが肝要です。
同様のことは投資の世界でも同様です。
俗に言う「塩漬け」はこの誤解※から生じています。
※この誤解、つまり冒頭で触れた「原価を基礎に価格を決定する」という誤解
塩漬け株
株式投資で言えば、塩漬け株です。例えば、あなたがトヨタ自動車の株式を5,500円で1,000株購入したとしましょう。
すると見る見るうちに株価が急落して4,500円になってしまった。
売らなければ損をしない。
だとか
5,500円で買ったから、5,500円以上になるまで待たなければ。
こんな台詞がしばしば聞かれるでしょう。
これは間違いです。4,500円になった時点で既に損をしています。
あなたは既に損をしている
5,500円になったら、損をしないではなく、正しく表現すれば、「4,500円になった時点で、一株当たり1,000円の損ですから、百万円損をしているが、5,500円になったら、損をした百万円が取り戻せる」なのです。
あなたが幾らで株式を購入したかは、マーケット(株式市場)の
含み損という言葉が良くないのかもしれません。これはあくまでも会計的な或いは税務上の概念です。
仮に株価の低迷が何年も続いたとして、含み損を抱えた株式を保有し続けることは、他の投資機会をも失うことにもなります。
或る意味で判断停止状態です。他の投資機会に乗り換えることもできるからです。
勿論、その株式を持ち続けることが最善の投資という判断であれば、一つの決断です。その場合は、相場が戻れば、株価が戻れば、損をしないという発想では有り得ません。現在百万円の損をして資産は450万だが、手持ち財産の投資先として、トヨタ自動車が相応しいという判断だということです。
価格形成のメカニズムに取得原価は関係ない
マーケットで取引される価格は、あなたが幾らで購入したか、つまりあなたの取得原価は全く関係ありません。
純粋にその時点での需要と供給のバランスで決定されます。一株当たりの純利益(EPS)や一株当たりの純資産(BPS)他、配当利回りなどの株式の価値を表すであろう指標の類も価格形成には直接的な関係はありません。
幾らで欲しい人がいるのか、幾らで売りたい人がいるのかが或る意味全てなのです。
スーパーマーケットでの価格設定と同様に、原価は売り手の都合、売価は買い手の都合で決定されるのです。