どう考えても自分は正しいことを伝えている。
それなのに相手は理解を示してくれない。
相手との関係も悪くないはずだから、自分が無視されているわけでもない。
どうしてだろう。
しばしばそんな場面に出くわすことがあるのでは無いでしょうか。
今回は、¶ 意見が聞き入れられないのには理由がある|同じ言葉でも受け入れられない訳 の続編です。
前回は、あなたの意見が聞き入れられない理由を、情報の裏付けの心許なさ、つまりあなたの言葉に対する信頼の低さに求めました。
つまり、あなたの発した言葉では無く、言葉を発したあなた自身への相手の感情に理由を帰しました。
今回は、発した言葉自体の問題を採り上げることにします。
そして最後には、会社内などで、上司や社長などにどう進言すれば良いかについて触れました。
意味を持たない正論
話の材料を提供するために少し古い話※を二つします。
※ 現在の話だと、否定的表現に語弊が生じる恐れがあるので、敢えて昔話を採用します。
斜陽
これまでにも何度か触れたお話ですが、高校三年生の時、大学受験に失敗し、進学予備校に通いました。
予備校講師
そこで恩師に出会ったのですが、その恩師が自身が従事している予備校講師と言う職業について興味深いことを語りました。
当時が受験生数のピークであるという時代的な共通認識があり、ともすると悲観的に見られがちな予備校講師という職業について、自身の将来に関わることとして触れたのです。※
※ 教師はしばしば自分を棚上げし、生徒たちの将来だけを採り上げて問題としたがる傾向にあるように思われますが、恩師は常に自身も同じ俎上に上げる人でした。
「これから先、(少子高齢化が進むから)子供が減り、予備校講師の仕事は減って行くだろう。だが、予備校講師の仕事自体は無くならない。つまり一定の需要は存在し続ける」
20年以上前の話ですが、依然として進学予備校は存在しますから予備校講師の仕事自体は存在します。恩師の言葉の中には、自身が予備校講師として質に勝ることができるという自負も含まれています。
統計資料を見るまでもなく、受験戦争と言われた当時と比べれば、明らかに受験生の数は減り、受験生に比して大学の定員が多くありますから、当時のように一浪は当たり前と言う時代でもないでしょう。
ここで注目したいのは、当時、今後はマーケットのパイが小さくなることが予見できたということ。そして現実に需要こそ減ったものの、予備校講師と言う職業は存続したということです。
時代背景を踏まえての恩師の言葉「予備校講師の仕事は減って行くだろう。だが、予備校講師の仕事自体は無くならない」は正しかったのです。
つまり、先細りが明らかな職種でも、それを選択し続けることに合理性が存在し得るということです。
もう一つは、中古車販売業の社長の話です。
中古車販売業
当時、社長は中古車販売業は斜陽産業であるとの自覚していました。社長には縁あって携わっている中古車販売業に思い入れがあります。
その社長曰く「マーケットは縮小に向かっているが、そのような時は勝つ企業が圧倒的な勝利を収めるだろう」というものでした。
ここでも恩師の話と同様に、逆風の中に選択する合理性を見い出すことができます。
前提としての共通背景
さて、当時の恩師と中古車販売業の社長ですが、両者ともに斜陽産業で勝算を持って果敢に挑んでいるということです。
これらの背景を念頭に、仮にあなたが当時、友人に言葉を掛ける場面を想像して欲しいのです。
友人に掛ける言葉
予備校講師の仕事をしたい友人がいたとしましょう。
あなたが当時予見された通り、友人に「これから受験生は減る一方で、予備校講師の口は少なくなるから思い留まった方が好い」と言うでしょう。
当時であれば、その後、受験生が減る一方で予備校講師の就職口が減ることは確か、結果として講師の需要も減りますから、言葉に間違いはありません。
聞き流されるあなたの言葉
ところが恐らく友人は、あなたの言葉を聞き流します。それも友人が真剣に予備校講師の仕事に従事しようと考えていれば考えている程です。
同様に、当時、中古車販売業にこだわりがあり、その業界で働きたいと考えている友人が居たとします。
あなたは中古車販売業のマーケットのパイは小さくなる一方だから、就職を思い留まった方が好いと伝えるでしょう。
意味を持たない正しい言葉
この場合も当時としては、中古車販売業のマーケットのパイは小さくなる一方だということは間違いではありませんから、正しいことを伝えたことになります。
ところが友人が真剣に中古車販売業に従事したいと考えていれば、あなたの言葉は受け流されるでしょう。
ここが重要です。
予備校講師の話も、中古車販売業の話も分かりやすい話なので、聞き流される理由、受け流される理由は容易に想像できるかもしれません。
あなたの言葉が聞き流される理由、受け流される理由は明白です。
あなたの言葉が友人にとって当たり前で何の意味も持たないからです。
要するに予備校講師になろう、続けようという人にとって、受験生が減少し、受験産業が縮小に向かうことなど当然なのです。
同様に中古車販売業を営もうと思っていれば、マーケットのパイは小さくなるということは当然に認識していることなのです。
煩わしいだけの正しい言葉
何を今更というのが本音。
単にあなたの言葉は
従って、仮にあなたが友人に言葉や意見を求められたとしても、敢えて斜陽産業であることを指摘することには全く意味がありません。友人は認識しており、当然に前提として念頭に置いています。
あなたができること、求められていることは、友人の従事しているものが既に斜陽産業であることを前提に、何が提案できるかということです。
相手にとっての当然の前提は、それを言葉にして相手に発しているあなたにとって、正しいことを言っているように感じられるものです。
ところが多くの場合では、あなたは正しいことを指摘し教え諭したつもりで悦に入っている一方で、相手にとっては既知で、しかも傷口に塩とは言わないまでも、不快感や痛みと感じることが多いものなのです。
疎 まれない部下になる為に
会社の中で、上司や社長に正しいことを伝え、自分が優秀な人材であるかのように錯覚している者を見かけます。そんなあなたは社長や上司に疎まれます。
上司や社長は、会社全体を俯瞰し考えていることが多く、部下であるあなたより視野が広いことがほとんどなのです。※
※ この点に心の底から疑問を持つのなら、転職をお勧めします。あなたは、あなたが自分にとって相応しい職場に居ないことを、きちんと認識すべきです。
したり顔で課題を指摘したところで価値はありません。なぜならば殆どの場合、上司や社長は既に当然のこととして認識しているからです。
分っているけれども打つ手がない。それを指摘して悦に入っているとすれば、あなたは煩わしいだけの存在です。疎まれて当然なのです。
疎 まれない進言方法
疎まれず、有用な情報を上司や社長に伝えるにはどうすれば良いのでしょうか。
これはしばしばあなたに返ってきたであろう社長や上司の言葉にヒントがあります。
「じゃあ、君がやってくれ※」
※ この言葉を採って、しばしば「なまじ意見を出すと無茶振りされる」などと言う輩がいます。ところが実際のところ、無茶振りではありません。むしろ相手にされていないと考えた方が正確でしょう。「君」にできると思って言っていることはほとんど無いからです。
「どうすれば好い※※」
※ これも真剣に反問しているわけではないことが殆どでしょう。答えが無いことを見越して、考える切っ掛けを与えてくれているのに過ぎません。
このような言葉が帰ってきたことは無いでしょうか。
課題の指摘は課題解決の方法と一組
要するに、課題の指摘と同時に課題解決の方法を示せば良いのです。
あなたの言葉が正鵠を射るものであれば、採用されるでしょうし、好い線を行くものであれば、何らかのフィードバックも受けられるでしょう。その時、初めてあなたは社長や上司に認められる機会を得ることができます。要するに相手にされるということです。
有能な部下である為には、課題の指摘と課題解決の提案は一組です。