職場における夫婦の存在は、多くの皆様の関心事のようです。過去記事 >> 夫婦が同じ会社に居ては問題なのか?|情報共有の疑念はとても多くの皆様にお読みいただいております。
続編として、改めて、このテーマを採り上げたいと思います。
道を誤った夫婦
舞台背景
或るラーメン店でのお話です。
こちらのラーメン店は、かなり急速に多店舗展開が進んでいますが、店舗をフランチャイズチェーン展開(FC展開)しないことで業績を伸ばしています。
店舗を手に入れるためには、実際に正社員として働いて経営理念を体得し、副店長、店長として実績を積んだ後、オーナー経営者の信頼を勝ち得たところで、実店舗を譲り受けるという形を取ります。暖簾を受け継ぐと言って良いでしょう。謂わば店舗経営のDNAを受け継ぐのです。
つまり、暖簾分けを仕組みとして持ち、それがインセンティブになっている会社です。
店長を務めている店舗を譲り受けるのが常の為、店長になってからの営業には特に力が入ります。いずれは自分の店舗になるのですから、店長就任と同時に、あたかも自分の店舗であるかのように店を考えることができるのです。
正社員のほとんど全員が、何らかの形でいつか店舗経営者になるという夢、野心を持っており、意欲的に働いています。
舞台はこんな背景を持った会社の或る1店舗でのお話です。
飲食業界という背景
解りやすくなるように、飲食業界特有の背景をお話ししておきます。
飲食店で次の仕事を習うということ
ご存知かもしれませんが、飲食店の仕事というものは、花形の仕事を任されるためには下積みがあるといいますか、仕事は順を追って習得していきます。
ラーメン店でいえば、麺上げ、麺場と言われる場所で、麺を茹で、どんぶりにカエシを入れスープを注ぐ仕事は、他の仕事を一通り十分に経験してから携われる仕事です。
また、一般に、新しい仕事を覚えても、実際に一定量をこなして初めて、習得したと認められます。及第点をもらい既に顧客に提供しているにもかかわらず、まだ習得途上とされるのです。実際に及第点に達していない状態であるにもかかわらず、顧客に提供することは有り得ないでしょうから、「及第点をもらい」と表現したことには特段の問題はないでしょう。
なぜならば、習得したとして、次、次と先をやらせると、仕事を一通り覚えたら辞めてしまうかもしれないし、そうでなくても後続に新しい人がいないと前段階の仕事をやる者が居なくなってしまうからです。
ですから、一定量は同じ仕事を続けて、ようやく「そろそろ次を教えてやるかな!?」ということになるようです。教えなければ、教えないで、見切りをつけられ、辞められてしまうので、難しいところです。
もちろん、前段階の仕事をやる人が居なければ、次の段階に進んだ人が戻って仕事をします。
また、仕事ができるようになっても容易にはできるようになったとは認めない文化もあるように思います。つまり、私的に練習してできるようになったとしても、容易には新しい仕事に従事させてもらえないということです。
評価は人次第
ところで、ここの会社では、先へ先へと次の段階の仕事を覚えることを奨励していますが、必ずしも実際のところは習得を認めてはもらえず、容易に先に進めるわけではありません。
副店長が習得を認めても、店長が否という場合も多いようです。
基準が明確ならば、店長も副店長も同じ判断になるはずなのですが、感覚によるところが大きいだけに、人に依存する部分が大きいのです。
技術習得着手までに時間が必要
これまで説明した背景を知ると理解し易いと思うのですが、パートやアルバイトといった非常勤の勤務形態では、次の段階に進むのは一般にとても難しいです。
先ずは一定量の仕事をこなしたと認められるのに時間が必要なためです。
この制約のために、現実的には、先に進むのが不可能な場合が多いと思います。勿論、パートやアルバイトも先に進める職場もあります。実際、今回の話の舞台である会社の或る店舗では、アルバイトが正社員のように先に先にと仕事を覚えていました。
勿論、セントラルキッチンで製造されたものを、店舗で温めて出すような経営ならば、事情は異なるでしょう。
さて、ようやく本題の話に入ります。
依怙贔屓(えこひいき)
将来、店舗経営者になれるという夢を描けるインセンティブプランはとても魅力的です。それもあってか人手不足は深刻とまでは行かない状況でした。勿論、他の飲食店と同様に課題の一つではありました。
そのような中、店長の奥さんがパートとして入ってきました。
公平を欠く評価
ところが、この奥さんは、一足飛びに麺場の仕事を任されました。
店長は奥さんに仕事ができるという評価をし、必要な下積みを省いてしまいました。
店長の奥さんということで、当然に周囲は遠慮が有ります。
このようなやり方では、他の古参の正社員達が面白くないでしょう。
「好いとこ取り」は許されない
一連の仕事を覚えていくために、長い拘束時間に堪え、きつい仕事を頑張っているのに、週に数日、しかも正社員に比べれば、遥かに短時間の勤務で、麺場の仕事に携わっているのです。
これが可能ならば、独立志望者は誰しもが選びたい勤務形態でしょう。
技術や経営ノウハウの習得が最大の関心事だからです。
「好いとこ取り(いいとこどり)」は、許されるものではありません。
分を弁えない(ぶんをわきまえない)行動
更に大きな問題がありました。
あろうことかこの奥さん、店内人事にまで口を出し始めたのです。
更には、あたかもリーダー格のように一席ぶったりするようになりました。
恐らく、将来、現店長、つまり夫が店舗オーナーになるということで、女将(おかみ)にでもなったつもりなのでしょう。
古参社員の燻りだした(くすぶりだした)不満は、どうも新しい正社員に向かったようで、結果、その正社員は退社することになったようです。
不当な人事で自らの首が飛ぶ
もともと売上が他の店舗の平均よりも低かったこともあり、その後しばらくして、今度は店長が店を追われました。
直接的な理由は分かりませんが、店舗運営に問題が有ったことは間違いないでしょう。
不公正な人事では、治まるものも治まらなくなるということではないでしょうか。
立地も悪くなく、他に理由は考えにくいのです。
夫婦が同じ会社にいることによる弊害
冒頭に触れた過去記事では、夫婦間の情報共有を問題視しました。
「公」という属性を忘れた罪
今回は、自分の配偶者への評価は他人よりも甘くなり、「『公』性を欠きやすい」ということです。
「公正を欠きやすい」と言い換えても良いかもしれません。
また、自分が管理者の立場にいた場合は、その甘くなった評価や公正を欠いた場合に苦言が呈されることは稀だということです。
一つ本質的な問題が隠れています。
無自覚な立ち位置
それは店長と奥さんの立ち位置の問題です。
先ずは奥さんですが、仮にパートで入ったとしても、自らが作り上げた足場で、一席ぶつのなら立派なものです。
しかしながら、店長の威光を配偶者という立場で利用するならば、歴とした不正行為です。夫である店長の甘い評価で一足飛びに麺上げに携わり、他の従業員に対して優越感を得たわけです。
続いて店長ですが、店舗の管理者である店長が、配偶者の専横を許しただけでなく、それを促進した罪は重いです。
本来ならば、店舗責任者として、奥さんの立ち位置を修正するように試みるなり、辞めさせるなりすべきだったでしょう。
預かり資産の私物化
店舗を預かっているということは、自分の所有している店舗とは異なり、「公」という属性が残ります。
店長たりと雖も、店舗は預かりものなのです。
結果は、「雇われ店長が店舗を私物化した」ということになります。
店長がオーナーならば・・・
裏を返せば、店長がオーナーなら、奥さんは女将であり、特段の問題は有りません。
もちろん、従業員の士気(モラール)、やる気は、店長と女将がどう振る舞うかで変化してきますから、何でも許されるわけではありません。
そうは言っても「公」を意識した店舗経営を行うのも良し、「俺がルールだ!」とばかりに専ら「私」的に店舗を経営しても良いでしょう。
全ての苦労と結果はオーナーである自分に返ってくるからです。
繰り返しになりますが、預かりものでは「公」を喪失してはいけないのです。