¶ 課題解決の手掛かり|前提条件を深掘りする でお話しした内容は、謂わば課題解決を遂行していく枠組みです。
企業に於けるガソリン代を削減する試みという卑近な題材を採りました。
そこで展開した解決は、あまり経験の無いスタッフでも思い付くと思われる内容に留まるものでした。机上での推論で事足りる水準の話であるということです。
今回は同じガソリン代削減を題材に更に踏み込んで考察を深めて行きたいと思います。
ガソリン代を削減しても本当に良いのか
本題に入る前に、前記事でのガソリン代削減の取り組みを基礎に状況設定を確認していきましょう。
燃料費削減の取り組み
営業の移動手段として社用車が用いられている甲社は、燃料費が嵩むためガソリン代を削減する手立てを考えていました。
販売価格が安い甲社近傍のガソリンスタンドを指定スタンドとし、給油を行うことにしました。
前回は幾つか条件を分岐させてお話ししたので、その点について予め決定しておきましょう。
給油スタンドを指定しても営業活動に於ける目的地から目的地への直行に何ら問題は生じないとしましょう。※
※ 前回記事の ¶ 試行前にできること で暗黙の前提となっているとした以下の2つは満たしていることになります。
- 指定ガソリンスタンドを利用すべき給油量が実効性のある水準(比率)で存在すること
- 取り決めが実効性がある程度の水準で遵守されること
つまり、指定スタンドで給油するという取り決めを皆が守っており、手続き上の問題は無かったということです。
ガソリン代は燃料費だけでは無い
ところでガソリン代は果たして燃料費だけなのでしょうか。
ここで問題にしたいのは、制度会計や税務上の取り扱いの話ではりません。管理会計上の問題と言っても良いかもしれませんが、社内外の制度的な部分からは外れた部分と言っても良いでしょう。
会計学の知識が無いと、ガソリンなら燃料費ではないかと短絡的に考えてしまうかもしれません。少し補足しておきます。
例えば、土地を取得したとして、一般企業ならば固定資産になりますが、不動産会社であれば、自社で使用するものは固定資産になりますが、販売目的のものは棚卸資産になります。
同じ商取引でも使用目的や意味で選ばれる勘定科目は変わります。
現場を知ると見えてくる
現場回りをしている営業担当らは何処で休憩を取り、何処で食事をするのでしょうか。
十分な営業手当が出ている企業なら、喫茶店など車外で休憩を取るという建前で良いかもしれません。
一方で、営業手当が十分でない企業だとしたらどうでしょうか。例えば、営業担当がいつも弁当持参だとしたらどうでしょうか。
ガソリン代は福利厚生費!?
甲社では、社用車の中で休憩や昼休みを取ることが普通でした。夏や冬は当然にエアコンのお世話になりますから、エンジンをかけます。
休み時間の休憩にガソリンを使用することは容認していました。甲社の財務状態では十分な営業手当を支給することが難しく、その方が安上がりと判断していたからです。
休憩時間の為にエンジンをかけて消費するガソリン代は、営業活動の為の移動で消費するガソリン代と性格が異なります。謂わば福利厚生費と云った意味合いになると言えるでしょう。※※
※※ 決して簿記で或いは会計的に分けて処理すべしと言っているわけではありません。念のため。
別枠で考えるべきガソリン代
例えば、継続的に営業で得意先回りをする際、Google マップなどで距離を測り、燃費計算からガソリンの標準費消量を計算するとしましょう。
その際には、性格の異なる福利厚生費的なガソリン消費は別枠で考える必要がありますということです。つまり、標準費消量の計算と別枠で考えないことは、福利厚生費的なガソリン費消への締め付けと同義であるということです。
休憩をしっかりとれるか、昼休みをゆったり寛げるかは、生産性に影響を与えます。ストレスの度合いが全く変わってくるからです。
ここをどうするかは担当責任者が、本来的には会社、つまり経営者がどう考えるかに依存する部分です。そして経験の足りない担当者が効率化と称して独断専行しては社内にいざこざを起こすのはこのような場合です。
ガソリン代削減のデメリット
ガソリンの費消を減らすことは単に勘定科目の一つである燃料費が削減される以上の影響があることを知る必要があります。
営業担当ごと或いは営業チームごとに走行距離とガソリンの使用量の統計を取り始めたとしましょう。そして、福利厚生的なガソリン使用も認め、或る程度、予算に遊びを持たせたとしましょう。それでもガソリン代削減の影響は残ります。
実際にガソリン費消量を調査される立場に立てば分かること、本来は想像すれば分かることなのですが、監視されている印象を受けます。
性善説、或るいは良識の範囲でのガソリンの使用を一任されていた状況と比べると、息苦しさや窮屈さを感じるということです。
例えば家族的な企業が、規模が大きくなることで、一任していたものを仕組み化、組織化して行く時にも同様の事態が起こりがちでしょう。
仕組みや規則を導入する場合、導入しようとする者は合理性に基礎を置いているのが一般的なのに対し、導入される側は感覚に基礎を置きがちであるからと云っても良いでしょう。
「全体を意識し」の「全体」
さて、掲題の「全体を意識し俯瞰する」の部分ですが、全体とは前回 ¶ 課題解決の手掛かり|前提条件を深掘りする でお話ししたガソリン代が含むものを網羅的に拾い上げるという意味合いでは無いことはお分かりかと思います。
帳簿上の或いは机上のと申しますか、数字上とは異なった次元を含めたものを意味します。つまり、ガソリン代削減の施策が、監視されている印象を与え、場合によっては士気にも影響を与えるということにも注意を払うということです。
ガソリン代費消の持つ幾層にも重なって存在するコンテクストの理解に努めることが必要であると言うことです。
さもないと、ガソリン代が減った、従業員も減ったという結果にすらなりかねません。
ワンマン社長
中小企業の経営者や中小企業にお勤めの方にとって、既視感のある話ではないでしょうか。
社長が思い付きで、
当社のガソリン代は高すぎるのではないか。
と言い側近にガソリン代削減を命じる。
幹部が経営企画的な機能を果たし、きちんと調査して対応できれば良いのですが、社長の言葉通りに実行しようとする。
社長は現場を知らない、或いは過去の現場の知識を元に考えるから、問題が起こる。
そのまま放置されてしまうならばましな方で、場合によっては組織に副作用が出る。例えば退職者が頻発。
社長の言葉をきちんと忖度できないことで招く混乱です。
ここに忖度できないとは、幾重にもなったコンテクストを解きほぐして社長の真意に応えるということです。
「社長が言われた通りにやりました」と云うのは「忖度できません」と同義です。要するに自身を無能と宣言していることだということです。