法外な見積金額が安くした|一流の誇り

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一流ホテル

広報・IR業務にいそしんでいた頃のお話しです。

IRの一環として、株主総会の他に、定期的に投資家向けに会社説明会を行っておりました。その際に大都市の一流ホテル※の大広間を借りることになるわけですが、長らくお付き合いがあり、勝手知ったホテルでは、見積もりは後回しにして、会場だけ押さえて置くことがしばしばありました。

ところがある時、直前になって前回80万円で借りた広間に300万円の見積もりが突如として現れました。さてこの結果や如何に!?

※ ホテルが特定されないように敢えて曖昧な表現を採りました。

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一流ホテルの矜持きょうじ

四倍の価格!?

寝耳に水とはこのことです。いつもなら、会社説明会の準備に入る為、会場設営の打ち合わせがてら、見積もりを取り寄せるタイミングでした。継続利用と信頼関係が背景にあるので、多少の交渉ですんなりと価格が纏まるのです。

一見いちげんの相手であれば、事前に見積もりを取るのは当然ですが、グループ企業も含め、長年付き合って来たホテルです。まさか四倍近い価格の見積もりが出てくるとは予想だにして居りませんでした。

タイムリミット

会場設営の打ち合わせのタイミングであれば、会場を手配し直すには既に時間不足タイムリミットです。それに何より、長らくお付き合いのあるホテル。取り敢えず、交渉してみる余地はあるでしょう。

担当の営業に電話すると、これまでとは別の人に変わっておりました。どうも若い人のようです。前回は閑散期の2月だから大幅値引きの80万円、今回は繁忙期の6月だから、300万の正価せいかだという答えが返ってきました。

こちらもおいそれと300万円の見積もりを受け入れる訳には行きません。これまでの取引状況をきちんと確認せず、正価で見積もりを、しかもこのタイミングで出してくることに驚きを禁じ得ませんでした。

  • そもそも長い付き合いがあっての信頼関係で、見積もりは直前まで請求していないこと
  • 繁忙期で価格が前回よりも大幅に上がるのなら、事前に打診があって然るべきこと

例えば、

今回は前回価格のような金額はご提案できません。引き合いの多い時期なので、価格は300万になってしまいますが、差し支えないですか。

といった具合です。

この二つのことを伝えました。

そして前回80万円で利用した会場を何の前触れもなく300万の見積もりを送りつけてくるのはどういうことかと詰問し、これまでの付き合いに鑑みた、相応の価格での見積もりを出し直すよう依頼しました。

ホテルとの交渉は、取り敢えずここまでです。

社内調整

続いては、社内調整に入りました。経営企画担当取締役には、これまでの経緯をきちんと説明し、半額の150万円までは値引きさせるので、その価格で了承して欲しい旨を伝えました。

同取締役もよく知っているホテルということもあって、見積もりを前もってとっていなかったことにも、さして違和感を覚えないようでした。

今回の状況に、相応の理解を示してくれた背景には、手前味噌にはなりますが、元々用心深い性格で、そう手抜かりは無いと理解してもらっていたことも挙げられると思います。

幸いにして、

半分まではちゃんと下げられるんだね。

の念押しと共に、半額決裁の事前了承が得られました。

信頼回復リカバリー

事態を重く見たホテル側は、くだんの新担当営業と共にベテランの営業が訪れました。

この辺りは流石さすが一流ホテルという対応です。きちんと顧客側の立場、感覚を理解しているのです。そこには御用達ごようたしの精神があり、おもてなしの心があります。一流ホテルたる所以ゆえんです。

顧客の窮地

会場手配の担当者が、間違いなく予算を超える見積もり提示を受け、しかもキャンセルできない時間的状況に追い込まれてしまった。これが作為さくいでは無いにしてもホテル側が導いてしまったということなのです。

落ち度

勿論、こちらにも落ち度はあります。信頼関係にあるとは言え、直前まで見積もりを取らなかったことは迂闊うかつそしりを受けても致し方ありません。

得難えがたい信頼

しかしながら、ホテル側としては、顧客を迂闊とは表現しないし、したくない。そこまでの信頼こそ得たいものであり、その信頼を裏切りたくない、裏切らないのが一流ホテルというものでしょう。

そこには一流ホテルとしての矜持きょうじがあります。

直前まで見積もりを取らないあなたが悪いのです。

とは言いたくないし、口が裂けても言わないのです。

結果良し

ですから、今回は申し訳ありませんでしたと平謝りで、破格の120万円で見積もりを出してくれました。

会場手配をしていた立場としては、自らが設定したノルマを大きく上回る値引き金額で見積書の再提出を得、ホッと胸をなでおろしました。

取締役には、「新人営業さんが値引きしてくれました」と120万円の見積もりを手に報告することができたのです。

実際のところ、120万円まで価格が下がったのは新人営業のお蔭です。抜かりなく「今回は前回閑散期のようにはいかないのですが・・・」と云った具合に事前相談されていれば、かなり高い金額を呑むか、価格が折り合わなければ、他のホテルを当たらなければならないことでしょう。

6月と言えば、上場企業の株主総会が集中する時期であり、ホテルの大広間は引き合いが多いどころの話では無く、書き入れ時なのです。そう言う意味では、ホテルには申し訳ない気持ちも有ります。

その一方で、ホテルに対する信頼はより一層強固なものとなりました。

※ 公開当初、記事の題名は「法外な見積金額だから安くなった|一流の矜持」としておりましたが、「法外な見積金額が安くした|一流の誇り」に変更しました。[平成29年2月6日]